緑内障
自覚症状が乏しいのが緑内障です。緑内障で視野が欠けると、何も見えなくなるのではなく、欠けた部分を脳は補正して見えているようにできるので、気づきにくいのです。
緑内障による失明は早期に治療すれば予防できることがよくありますが、自覚症状が出る前の検査での発見と治療の開始、継続が失明からの防御です。
緑内障は、日本での失明原因一位です。
緑内障は必ずしも高眼圧ではありません
- 緑内障とは、「視神経と視野に特徴的変化」つまり、視神経障害により視野が欠けてくることです。
- 緑内障ガイドライン第4版では、「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常, 眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善も しくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾 患」と簡単に、緑内障は、高眼圧によるとしていません。
- それは、
- 眼圧が正常(21mmHg(ミリ水銀柱)以下)でも緑内障になるし、
- 緑内障には眼圧以外のはっきりしていない原因の関与があるだろうとされているからです。
緑内障発症のメカニズム
- 視神経は生まれたときは約120万本程度で、少しづつ加齢によって減少する視神経線維で構成されています。
- 正常な視神経は、多くの細いワイヤーが束になった電気ケーブルのようなもので、フィルムにあたる 網膜に映った光を脳へ情報伝達しています。
- 網膜の細い視神経線維が束となって、出入り口である視神経乳頭部分から眼球に入り、放射状に分かれて眼球内面に広がります。このため、乳頭辺縁部は軽度に隆起しています。その際、直角にはならないで広がるため、もともと視神経乳頭中央部に陥凹があります。
- 緑内障では、視神経が損傷を受けると、神経線維が減少し、外観が変化します(カッピングの拡大と呼ばれます)。
- このくぼんでいる視神経の出口(視神経乳頭)が圧迫されて、さらに深く広く陥没するのです。
- このときに眼圧の関与があります。
- 眼球は形を保つために目の中の水分である房水で満たされています。眼圧とは、この房水によって加わる圧力です。
- 房水は角膜の隅にある隅角から流れ出ています。ですから、隅角が詰まったり閉じたりすると房水が流れにくくなり、眼圧が上がります。
- 眼球をボールに例えると、眼圧はボールでの中の空気圧です。ですから、眼圧が上がるとボールに空気がどんどん入ってパンパンになって、くぼんでいる視神経の出口(視神経乳頭)が圧迫されて陥没します。
- 空気を入れすぎたボールだと破れて穴が開きますが、眼圧が上がった眼球では破れて穴が開くことがない代わりに、もともとくぼんでいる視神経乳頭の陥凹が圧迫によって拡大するのです。
- カッピングが増加すると、暗点が発生します。
- (視神経乳頭の陥凹が拡大すると、そこに集まっている視神経もダメージを受けて視神経線維の数が減少します。視神経線維の数が減ってしまうと、網膜で集められた光の情報のうち傷んだ視神経線維の部分の映像は脳へ伝わりにくくなります。そうすると、その度合いに応じて眼を動かさずに見ることのできる範囲(視野)が欠けてしまうのです。)
(アメリカ眼科学会 American Academy of Ophthalmology による35秒のアニメーション—英語ですがパソコンだと画面の右下歯車マークの設定ー字幕ー自動翻訳ー日本語 で日本語翻訳になります)
神経線維が異常に減少する原因について眼圧以外の因子はまだよくわかっていません。
- この高眼圧が緑内障の原因であるという理解がまず基本にあり、ついで、1960年以降眼圧が正常(21mmHg以下)ないし低値を示すものが緑内障の多数を占めることが明らかとなりました。
- 現在では、緑内障は高眼圧だけではないと理解されていますが、神経線維が異常に減少する原因については、眼圧以外はまだはっきりわかっていない状態です。
Blausen社の緑内障のMedicalCG(日本語)の美しい映像(1:42)をご覧ください。
気がついたら視野が欠けていたことがよくある(自覚症状が乏しい)病気が、緑内障です。
症状としては、片眼で眼を動かさずに見ることのできる範囲(視野)の一部が霞み、見えない場所(暗点)が出現したり、視野が狭くなったりして、最悪の場合は失明を招きます。
ただし、
1,初期には視野欠損がわずかで一部が霞んでいるだけです。痛みがあったり、瞳が充血することはありません。
2,障害の進行は、中心視野以外から始まると、自分では通常気がつきません。
人は中心部(黄斑)で見るので、中心視野に障害がないと、物の存在やその形状を認識する能力に大きく影響しません。
そして、殆どは、周辺部から始まり、中心部の視野は最後まで保たれることが多いので、気づいた時には、既に視野欠損が拡大しているケースが多くなるのです。
3.更に、脳が見えていないものを補填します。
まず、両目で見た場合には、片目には見えない部分を、反対側の目で補います(両眼視による補填現象)。
片目で見た場合でも、欠けた部分を補うことを脳が行います。視野欠損部位が黒くなったり白くなったりするのではなく、視野欠損があっても、脳が欠損部分を補ってしまいます。
(脳は実際に見えないものを補います。カニッツァの三角形 エーレンシュタイン錯視 )
4,日本人の多くは正常眼圧緑内障のタイプなので、眼圧が正常(21mmHg未満)と言われていても、気づいた時には、既に視野異常が生じていることはよくあることになります。
- 緑内障による視野障害は自覚しないまま進行することが多いことについて、警察庁も高齢運転者への注意喚起を求めています。
- 日本の警察庁は
「視野障害を伴う多くの眼科疾患が加齢により増加すること、視野障害は自覚しないまま進行することが多いこと、視野障害によって信号を認識できなくなること等により交通事故を起こすリスクがあること等について広報啓発活動を推進し、運転適性相談を始めとする様々な機会を活用して高齢運転者に注意喚起すべきである。」
としています。(警察庁 高齢運転者交通事故防止対策に関する提言 P.10)
忍び寄る失明の恐怖 silent thief of sight(音もなく視野をこっそりと盗む盗人)
- 眼圧が高いことを自覚できることは、急性緑内障発作を除いて、まずありません。
- 被害者である緑内障患者は緑内障にかかっていることさえ知らないことが非常に多く、自覚症状が出て気がついたときには、失明になることもあるからです。
- 日本では緑内障が発症しても9割が未治療のまま放置されていることが
日本緑内障学会が岐阜県多治見市で実施した40歳以上の住民約3000人への疫学調査
でわかっています。
- この調査では、5%が緑内障であり、うち9割は緑内障とは気付いていませんでした。
- 緑内障の失明率についての日本での調査結果の発表はありませんが、4,7万人が緑内障で失明しているとの報告があります。
- 緑内障の国内の推定患者は約3~400万人です。
(2008年)の4分の1の4.7万人弱が緑内障で失明していると考えられます。
なお、「緑内障は、推定4.7万人が失明している日本での失明原因一位です。」は、障害認定を申請しないとカウントされない視覚障害認定交付による算出です。疫学調査による視覚障害原因の順位では緑内障は2位です。
「40代から要注意。まず、チェック(ヴィアトリス製薬株式会社)」
緑内障のセルフチェック「簡易版ノイズフィールドチェック」(ヴィアトリス製薬株式会社)
「このチェックは疾患の診断に代わるものではありません。視覚異常があっても検出されない方もいます。
病気の診断には眼科専門医による正確な検査が必要です。チェックの結果、問題や異常がなくても、不安や気になることがあれば必ず眼科専門医にご相談ください。」
緑内障では早期の検査や診断が重要です。OCTで視神経線維の厚さを確認して、早い時期に対策をすることができることがあります。
- 視野欠損がおきる前に、たとえば、視神経乳頭の所見と光干渉断層計(OCT)検査での網膜の厚み、正確には視神経線維の厚み等の所見を合わせて確認することで、一般的な開放隅角緑内障のごく初期の異常も確認できる場合があります。
- 異常が確認できれば、緑内障の早期対策になります。
- 緑内障では早期の検査や診断がとても重要なのです。
- 検診介入による 40 歳以上の緑内障の失明減少率は45%という報告があります。
包括的スクリーニングとしての成人眼科検診の効果 山田 昌和・ほか
緑内障の検査
- 緑内障の検査には、視力検査、眼圧検査、眼底検査、光干渉断層計(OCT)検査、視野検査、隅角検査などがあり、これらの検査の結果により、総合的に緑内障の診断をします。
眼圧検査
- 目の表面に空気をあてて測定する方法(非接触式)で視神経にかかる圧力を測定します。
- 眼圧は血圧と同様に、1日のうちでも高低があり、個人差もあります。日本人について、眼圧が正常な範囲(21mmHg以下)でも緑内障を発症する人が多いことも分かっています。
眼底検査
- 眼に光をあてて視神経乳頭の変化をみて、視神経のダメージを調査します。
- 視神経の眼球の出口(視神経乳頭)には小さなくぼみがあり、視神経が障害され、神経線維が死んで本数が減ると、このくぼみが大きくなったり、形が変形したりします。
- 「視神経乳頭陥凹(かんおう)」と呼びます。
視野検査
- 眼を動かさずに見ることのできる範囲(視野)を調査します。機器の前に座って、機器を覗いて、現れる小さな光が見えたときにボタンを押します。
- 視野が欠けた部分が、円形に表示された視野にある濃い黒い点として表示されます。
- その有無や大きさから眼底所見に一致した暗点が出ているか、また、それが拡大しているのか(進行しているのか)を確認して、緑内障の進行具合を判定します。
- 当院では、ハンフリーフィールドアナライザーHFAⅢ を使用します。
光干渉断層計検査(OCT)
- OCTは網膜の断面を拡大して撮影したり、網膜の厚みを測る機械です。網膜を輪切りにして断面を精密に撮影して神経線維の束の視神経線維層の厚みとその分布(視神経線維層が薄いと、視野欠損の可能性がある)及び視神経乳頭の陥凹の形状を正常な人のデータと比較することで、視野変化が起きる前に視神経の損傷を詳しく把握できます。
- 当院では、カメラ付き光干渉断層計Retina Scan Duo™ を使用します。
OCTでは、視野が欠けていない段階の緑内障(前視野緑内障)を発見することもできます。
隅角検査
- 点眼麻酔をして、隅角鏡という特殊なコンタクトレンズを患者さんの目に押し当てて隅角を観察して、隅角(房水が眼内から出て行くところ)の広さや異常の有無を調べます。
- 圧迫感があることがありますが、痛みはありません。
- 緑内障の病気の種類には、虹彩と角膜の隙間である隅角(ぐうかく)という房水の出口が正常な広い「開放隅角緑内障」と狭い「閉塞隅角緑内障」があります、
- 隅角検査は「閉塞隅角緑内障」や原発閉塞隅角症(PAC)などの判定に重要です。虹彩が角膜との隙間をなくしてしまうと、排水の流れをブロックして、房水の流れが止まり、眼圧が急激に上昇し、激しい眼の痛み、頭痛、吐き気などの症状が出て、失明の危険もあります。(急性緑内障発作)
What is angle-closure glaucoma?
(「閉塞隅角緑内障」とは何か?アメリカ眼科学会 American Academy of Ophthalmology による19秒のアニメーション—英語ですがパソコンなら画面の右下歯車マークの設定ー字幕ー自動翻訳ー日本語 で日本語翻訳になります)
緑内障の治療
- 減ってしまった視神経線維を再生することはできません。いったん欠損した視野を確実に回復できる確立された治療法はありません。
現在、視野障害進行への抑制効果が確認されている確実なエビデンスがある治療法は、眼圧を下げることです。 - これは、高眼圧の緑内障のみならず、正常眼圧緑内障でも同様です。
- 点眼薬も 房水の流れを調整して眼圧を下げるために行われます。(眼圧は、房水の量が増えると上がるので、産出量を減らしたり排出を増やしたりすると、眼圧は下がります)
- 当院では点眼薬での眼圧管理を行い、定期的な視野検査およびOCT検査にて緑内障の長期的な進行の確認を行います。
- 必要な場合には 大学病院などの高次医療機関と連携 してレーザー治療や手術を行い、術後の管理を当院で行います。
一般名での処方について
後発医薬品があるお薬については、患者様へご説明の上、商品名ではなく一般名(有効成分の名称)で処方する場合がございます。
医療情報の活用について
当院は質の高い診療を実施するため、オンライン資格確認等から取得する情報を活用して診療をおこなっています。